珍しく一番投句ができてホッとしていたら、すみれさんから二番投句が届きました。さっそく拝見していると、なんだか「おうの」のことがとても案じられるようで、最後にこのお話まで添えられていました。
失礼ながら、よくありがちな結末を追いかけるつもりで読み始めたのですが、すみれさんが用意されていたのは、もっと現実的だけど納得がいく優しい結末(スタート?)♪
それではどうぞ、お楽しみくださいね。



それからの おうの



『や、止めて!来ないで!!』
悪夢にうなされながら、おうのは、布団の中で泣いていた。

あれから、同じ夢ばかりを見て、眠れない夜が続いている。自分の躰に圧し掛かってくる男の臭い息や、無理やり捻じ伏せられて犯される寸前まで追い詰められた時の絶望感、人殺しとなってまで、自分を二度も救ってくれた母への愛しさや申し訳なさ、色んな思いが複雑に絡み合っていて、暗闇を彷徨っているようだ。
そして、今度の事件で、過去のおぞましい記憶がまざまざと甦ってきて、一層、おうのを苦しめるのだ。
只一人の味方であった祖母が、あの後、火が消えるように亡くなってからは、身内からも店の奉公人からも無視されるような毎日が続いている。

母のおきたは、また人殺しとなって島送りの身になったが、娘を助ける事ができたという達成感があるから、再びの島の暮らしにも耐えて行けるだろう・・・。
でも、おうのは・・・助けられるばかりで、我が身を守るためとはいえ、抵抗した結果、年寄りを死なせてしまった事への罪悪感から、なかなか抜け出せないでいる。
罰を受けないことが却っておうのを救われない気持ちにさせている。

祖母の四十九日の法要が過ぎた頃には、町の木々は紅葉が始まっていた。
そんなある日、おうのが、奥の部屋でひっそりと縫い物をしていると、客が案内されてきた。
「まあ!かわせみのおるい様!ようこそおいでくださいました。あれ以来、ご挨拶にも伺わず・・・」
これだけ言うだけでも、おうのは泣きそうで、言葉に詰まってしまう。
るいは、秋らしく小菊をちらした小紋姿で艶やかにおうのに微笑みかけた。
「おうのさん、部屋に篭ってばかりおいでになるのではと、心配しておりましたの。おばあ様のご供養も区切りがついたご様子ですし、今日はお誘いにまいりましたのよ」
るいは、おうのを和光尼が主催する琴の演奏会へと誘いにきたのだった。

琴の演奏会では、晴れやかに着飾って、娘達が次々と琴を奏でていく。
おうのは、気後れを感じながらも自分も習った曲が演奏されると懐かしい気持ちが徐々に湧いてきていた。そして、和光尼が奏でる琴の見事な旋律を聴いた時には、まわりの誰も目に入らず、身体中で和光尼のおりなす琴の調べを感じていた。

「おるい様、本当にこんな良いひと時にお誘いいただきましてありがとうございました。和光尼様とは初めてお会いしたのに、何かずっと以前からお知り合いのような親しみを感じます」
「そう、それは良うございました・・・実は、和光尼様はね・・・」
るいは、おうのに、和光尼こと五井和世の境遇を語ってきかせた。和光尼なら、おうののこころを安らげてくれると考えたからだ。

和光尼が二人に近づいてきた。おうのに優しく微笑みながら語りかけた。
「おるい様、こちらがおうのさんですね。私の琴を熱心に聴いて下さっているのが良く判りましたよ。ようこそおいでくださいました。これからは、いつでも遠慮なくいらして下さいませ。貴女のおこころの 苦しみ、御仏とご一緒にお聞きしますよ」
その言葉に、おうのは胸が一杯となり、大粒の涙をぽろぽろこぼした。その背中をるいがそっと撫でている。

おうのの潤んだ眼に、庭の紅葉が鮮やかな色ではらはらと舞い散るのが見える。
季節は冬へと向かうけれど、おうののこころには温かい日差しが差し込んできたようだ。