最近とても素敵な本に出会いました。NHK出版の「鷹羽狩行の一句拝見」という本です。著者の鷹羽狩行(たかはしゅぎょう)さんは当代を代表する俳人のお一人です。
  内容は、鷹羽さんが「NHK俳壇」誌上で、3年にわたり3人の初心者の方に俳句の手ほどきをされたものです。句を作った時の気持ちや状況をよく聞き、季語の選び方や添削の仕方を会話形式にしてまとめられた、とてもわかりやすい本でした。
  その3人の方とは、1年目が作家の北原亞以子さん、2年目が「われらがおるい様」真野響子さん、3年目が音楽家の森ミドリさんです。才能豊かな方々なので、できた俳句も個性が光っていました。

  真野さんはとても好奇心旺盛で、知らない季語をどんどん使って句に挑戦されています。またお仕事柄海外にもよく行かれるそうで、旅先での句もたくさん作られています。
  ここでは真野さんの作品から、私が好きなお句を紹介させて頂きます。



 新年の句
頂きを日に染め富士の着衣始め(きそはじめ)
「着衣始め」は新年に新しい衣服を着るという季語。富士山を女性に見たてて、初日を浴びた様子を詠まれています。


田作りの苦きを好む齢となり
子どもが小さい時は残ってしまった田作りが、いつの間にかひっぱりだこになり、年月を経たことを感じられたそうです。




 春の句
薔薇の芽の寸の向うにベイブリッジ
横浜の「港の見える丘公園」のバラ園から見たベイブリッジを詠まれたそうです。空と海の青に、白いベイブリッジと薔薇の芽の赤が印象的だったそうです。


ラブチョンの揺ればらばらに春北風(はるならい)
ラブチョンは中国の腸詰で、お節料理には欠かせない食材だそうです。春節が近い中華街の雰囲気がよく詠まれていますね。
(原作のラブチョンは漢字ですが、漢字で入力できなくてカタカナにしました。 スミマセン。)




 夏の句
たおやかに裳裾なびかせ海月(くらげ)ゆく
それまで刺されるので怖いと思っていたクラゲの動きをよく見てみたら、とても美しいと感じられたそうです。その動きを女性の着物の裾ととらえて、詠まれました。


子つばめが金のラッパの口をあけ
これは読むとすぐに情景が目に浮かびますね。




 秋の句
闇を切る白きてのひら風の盆
富山県八尾の「風の盆」の句です。夜中の十二時を過ぎると電気が消え、暗い路地で踊る人たちの手の白さが、神秘的で美しかったそうです。


回廊を色なき風や法隆寺
「色なき風」は秋風をあらわす季語です。法隆寺の回廊に立つのがお好きだそうで、ご自分が古代人になったようにも感じられたそうです。




 冬の句
身じろぎもせず力ため寒の鯉
これは講談社の「新日本大歳時記」に例句として載っているそうです。「申し分ない。人生の“雌伏”まで思わせる」というのが鷹羽先生の評だそうです。


伸びたきは伸びよ月夜の軒つらら
子供の手の届くつららは折られている、高い軒下のつららは夜の間に、好きなだけ伸びなさいという思いで詠まれたそうです。


 海外での句
高台のマリアのもとへ漁夫帰る
これはポルトガルのナザレという漁師町で詠まれた句です。湾を一望できる高台に、漁師を守るようにマリア像が立っているそうです。


キャラバンの鐘をはるかに外寝かな
これはネパールで詠まれた句です。隊商の中のラバが付けている鐘が、遠くから低く響いて、目が覚めたそうです。