今月の「夕涼みの女」は、深川を舞台にしたちょっと楽しいお話ですが、その「深川つながり」でたまこさんが、こんなステキなお話を作ってくださいました。
「かわせみ」というより、平岩ファンの皆さんに喜んでいただけそう〜!
どうぞお楽しみください。



新蕎麦人情



オマケというほどのものでもありませんが、深川が舞台の話なので 長寿庵創業史(笑)を一発…
長助の老母おますさん(もっとも、長助のお母さんは継母か?というナゾも ありますが…)「小判商人」で闘病中でしたが、その後どうなったんでしょう気になりますよね〜
↓の話では、いちおう、おますが長寿庵の家付き娘だったことになってます。

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「蕎麦でも食いませんか。先ごろ、深川に出来た蕎麦屋なんですがね。狭くて汚い店ですが、味は悪くない。信州から出てきた若い夫婦者が屋台の立ち食い蕎麦屋から始めて、半月ほど前に開いた店なんです。」
大久保源太が隼新八を案内したのは、深川佐賀町、永代橋を渡って間もなくの所にあった。

屋台に毛が生えたほどの小さな店ではあったが、源太の言葉とは違い、隅々までこざっぱりと掃除が行き届いて、腰掛に女房の手作りらしい藍染の小座布団が敷いてあるのが気持ちをくつろがせた。
「おます、お客さんだよ、邪魔になるからあっちで遊びな」
物珍しげに新八たちを見上げていた、おますと呼ばれた三才くらいの女の子は、母親に言われると聞き分けよくちょこちょこと店の奥に入って行き、大人しく一人遊びを始めた。
間もなく運ばれてきた蕎麦の味も出汁の香りも、なかなかであった。
「どうだい、長七、その後繁盛しているか」
「大久保の旦那のおかげさんで、昼間から夕方は八丁堀の旦那方も見回りのついでの腹ごしらえに寄って下さいますし、朝方、吉原(なか)の帰りに寄って下さるお客さんも増えまして…この分なら何とかやっていけそうです。」
まだ三十には間があると思われる亭主は、嬉しそうに答えた。
「そいつは何よりだ。ところで、店の名前は決まったのかい」
「そんな…まだまだ名前をつけるような店じゃねぇんで…」
「何を言ってるんだ、お前たちが汗水たらしてようやく開いた店じゃねぇか。今名前をつけないでどうするよ。よし、俺がいい名前を考えてやろう。長七、かみさんの名前は何ていったっけな」
「おひさでございますが…」
まだ初々しさを残す女房が頬を染めるのを見やって長七が答える。
「おひさは『ことぶき』の『お寿』かい?」
「え…うちの親は無学でございますから、難しい文字は…あたしもようやっと仮名しか読めませんし」
おひさが消え入りそうな声で言った。
「そうかい、目出度い文字だから親ごさんも反対はしねぇだろう、お寿ということにしておこう。じゃぁ夫婦の名前を取って、こんなのはどうだい」
源太は懐から半紙と筆を取り出し、さらさらと書いて突き出した。
「ほう、長寿庵…縁起もいいし、繁盛しそうな名前じゃないか」
新八も横からのぞいて言った。
「旦那、有難うございます。あっしらのような者のために…」
声をつまらせる長七夫婦に、源太は言葉を続けた。
「深川っ子は、口は悪いが人情は厚い。骨身惜しまず働く者は、必ず皆で応援してくれる。今の気持ちを忘れずに、孫子の代まで店が繁盛するように、夫婦力を合わせて頑張れよ」
横でうなずきながら、律儀だけが取り得の新参者という印象のあった大久保源太も、すっかり貫禄がついたものだと、新八は心の中でにやにやした。

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たまこさんのショートストーリー(ネタばれ?!)もすごくいい!そうか、これを持って来たか〜と感動しました。
(花みずきさん)
たまこさまのショートストーリー、ニヤリがいっぱいでした!それにページ左の模様がたまこさまの書かれた「座布団」の柄の雰囲気に合ってて素敵〜〜。
(のばらさん)
そしてたまこさんの「新蕎麦人情」意表をついて大久保源太と新八が登場とは!しかも「長寿庵」の誕生秘話まで拝見出来るなんて、本当に得した気分(笑)素敵なお話をありがとうございました。
(あっちの管理人さん)
長寿庵は長助親分のお爺さんたちが開店なさったのですね そのひいきが大久保源さんだなんて以外と言うか面白いですね そして新八さんも登場するなんて笑えます(拍手) たまこさまの発想は面白いです
(ところで新八さんもお鯉さんとの不倫関係がチョット好きじゃありません やっぱり出来は悪くても可愛い奥さんのほうに一票 そこのところがかわせみのように大好きになれないところですかね なんておこいさんフアンの方ごめんなさいー逃げる)
(ぐりさん)
姐さんのショートストーリー、流石ですね!このまま「オール読物」に掲載して欲しいく らいです。
(コシキブさん)
いつもながら、どうしてたまこさんはこういう発想ができるんでしょうねぇ。(惚れ惚れ〜) 「かわせみファン」だけでなく、「新八ファン」にとっても嬉しい一編ですね。UPするまで黙っているのが辛かった〜。
(こでまり)
長寿庵のルーツのお話、発想が本当に素晴らしいです。隼シリーズに繋がるなんて、目からウロコがボロボロ落ちました。(拍手) たまこ様の江戸物語にはしっとりとした下町情緒があふれていて、庶民の暮らしが自然に描写されていて大好きです
(すみれさん)