作者のたまこさんは「そろそろリンクを外して〜」とおっしゃったのですが、私、大〜好きなんです、このお話♪
サイトの引越しでリンクが切れていたのですが、たまこさんのご厚意で、データを貸していただきました♪ありがとうございました。
皆様も、どうぞお楽しみくださいね。
(平成20年2月)



東吾・るい再会の場面



大川端の賑わいと、川岸に立つるいのショット

【ナレーション】
「あの方と私は幼なじみ…でも幼い日の想い出は遠く、今は、与力の家を継がれるはずのあの方と、八丁堀を出て町方の暮らしに入った私の住む世界は決して重なることはありません。それでもこうして大川のほとりに立つとき、いつかある日、あの方が私の元を訪れてくださるような、ひとときの夢が心を通り抜けるのでした」


◆深川の料亭。
  東吾の悪友たちが集まり、長崎からの無事帰還を祝って飲んでいる。

酔いが廻りしだいに乱れてくる座敷。東吾は酔いを見せず、しかしどこか屈託のある様子で杯をあけている。

「畝はまだ来ないのか」「源三郎か。あの要領の悪い律義者、こんな日でもまた何か仕事を押し付けられて、背中にひび切らしているんだろう。」などの声。

「おい神林、お前のことだ、長崎ではさぞ丸山あたりでいい思いをしたのだろうな」
「俺も長崎、いや京でもよい、好い女のいる所に出張の話が来ねえかな」
「お前じゃぁ何処へ行こうが女のほうでお見限りだ」
など、うるさい友人たちを適当に受け流す東吾。

「それにしても、八丁堀も変わったな。」
「昔は同心にも、庄司殿のような硬骨漢がいたものだが、あの人も気の毒に、上役に疎まれたままでひっそりと死んだそうだな」

東吾の眉がぴくりとするが皆酔っ払っていて気づかない。
東吾を放っておいて皆で話に花を咲かせている。

「そういえば、庄司殿には娘がいたのじゃないか。娘はどうしたのだ」
「ああ、あの娘か。すごい美人なのにやたら物堅い娘で、ちょっかいを出す奴は皆はねつけられたという話だぞ。しかし父親が死んで男兄弟もいないのじゃぁ、当然だれか婿をとって家をついだのだろう。庄司の家がつぶれたという話は聞いていないからな」
「そうか惜しいことをしたなぁ。あんな美人なら、身分の違いなどどうでもよい、俺がまず婿の名乗りをあげたのに…」

東吾のピッチがぐんぐん速くなる。酔いたいが酔えない東吾。

ようやく源三郎が入ってくるが、座が乱れていて誰も気づかない。
そっと東吾のそばに来る源三郎。

「どうも遅くなりました。東吾さん、ずいぶん荒れた飲み方ですな」
「今夜は遅くなるのは、兄上も承知さ。どうせ用無しの冷や飯食いだ、二日酔いだろうが三日酔いだろうが誰が困るもんじゃねえ」
「お屋敷はともかく、大川端のかわせみには行かないつもりなんですか。おるいさんは決して口には出しませんが、東吾さんが訪ねてくるのを一日千秋の思いで待っているはずです。」

源三郎の胸倉をつかまんばかりに興奮する東吾。
「大川端だと? るいがどうしたというのだ。あいつは父親が死んで婿をとり家を継いだのではないのか?」

「東吾さん、私の手紙を読まなかったのですか? 庄司殿が亡くなられた知らせに追っかけて、長崎へ書いてやったはずですよ。おるいさんは、山ほどの婿候補をみんな断って、縁者に同心の株を売り、一人で八丁堀を出て、大川端で素人宿屋を始めたんです。」

かわせみで助け合って働く皆の姿がかぶる。
雪の中で井戸を汲むるいをあわててかばうお吉、腰をかばいつつ重い荷物を運ぶ嘉助。
きりきり働いた後ふと遠い目をする、るい

「嘉助やお吉も一緒に、必死で慣れない商売を頑張っています。それもこれも、おるいさんの心にはどなたかさん以外は影も形もないからじゃないですか。東吾さんの筆不精は手前もよく存じていますから、手紙の返事はなくても驚きませんでしたが、こんな時間になってもこんな所で酔っ払っているとはね…」

「源さん、本当か?!庄司殿が急死された便りは、源さんからの手紙も、兄上からの手紙も、同じ頃に受け取ったが、それっきりだ。その後、るいのこと等なにも聞いていない。るいは婿も取らず、嫁にも行っていないのか。あいつはまだ一人でいるのか?」

「おかしいな。東吾さん手紙を受け取っていないのですか。どこかに紛れてしまったのかなぁ」
「おい、そんな事どうでもいい、すぐに案内してくれ。大川端だと?大川端のどこなんだ」
あわただしく立ち上がり源三郎を引っ張る東吾。
「おい、主賓がどこへ行くんだ」
などという友人たちを無視して、走り去る東吾と源三郎。


◆かわせみの玄関

すでにしっかりと戸締りがしてある。戸をたたく音に、怖い顔で素早く対応する嘉助。奥からお吉とるいが不安げに見る。源三郎が名乗る横から東吾が待ちきれないように声をかける。

「俺だ。神林東吾だ! 昨日長崎から帰ってきた。かわせみのことをたった今源さんから聞いて…」

嘉助の表情の激変。
「か、神林の若様…」
ふるえる手で戸を開ける。
お吉のクシャクシャ顔。
るいは表情を変えずに凍り付いている。

向き合う二人。二人だけの世界に入っている。
るいの表情がようやく変化する。
「東吾さま…」
源三郎が挨拶して出ていくが、誰も見ていない。


◆神林家

源三郎が、通之進と香苗に、東吾が悪友たちに酔いつぶされたので、料亭に一泊して明日朝帰ると言い訳している。
「私がついておりながら、まことに申し訳ないことで…明日必ず深川へお迎えにいき、こちらまでお送りいたします。悪友たちが寄ってたかって飲ませましたので、どうぞ東吾さんをお叱りなきように…」
またまた例によって、という表情の神林夫妻。

源三郎が帰ってから、麻生家からの使いが神林家へ。
「夜分、申し訳ございませんが、長崎から持ち帰られたお荷物をうちの殿様が片付けられていると、畝様から東吾様へのお手紙が、どうしたものか、殿様の御書類の中に紛れておりましたそうで…早いほうがよいだろうとの殿様の仰せで、持って参じました」

手紙を開けてみる通之進。
香苗「あなた、東吾さんへのお手紙を勝手にお開けになっては…」
通「よいよい、このような古い手紙、今更捨てるだけのものじゃ」
手紙に目を通す通之進。

「そうか、なるほど…あの娘八丁堀を出て町人になったと聞いたが…大川端で旅籠を」
「何でございます?」
「大川端か。八丁堀とは程よい距離じゃのう」
にやつく通之進。???の香苗。