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 白萩屋敷の月
「白萩屋敷の月」  (平岩弓枝著:文芸春秋刊)
文庫本:「白萩屋敷の月」より
平成15年9月




(UPのお知らせより早く)
たまこさん、ご挨拶より早く見つけてくださってありがとうございます。
この数日皆様のを読ませていただきながら本を読み、
本を読みながら自分も作り、なんだかバーチャルで恋愛したみたいで、
疲れました。あはは。
今月もありがとうございました。
(ここの管理人)
こんにちは。毎月楽しみにしています。
皆さんほんとうに今月は艶めいてそして幽玄な感じですね。
このお話と皆さんの句のおかげで、
私の中で萩と月はとても色っぽい風景になりました。
(小式部さん)
先ほど拝見しました。
それぞれの場面の映像が鮮明に思い浮かぶような気がします。
とても趣があって、美しくて、そして悲しい。
皆様とても素敵ですね。感動しました!
(橘さん)

参加できませんでしたが皆様の句を見させていただきました。
皆さん、哀しくはかない恋をそれは美しく詠まれていますね。とても素敵です。
以前から思っていたのですが、
このお話はいつも好きなお話の上位(というかトップですか)なのですが、
いつ読んでもかわせみのような気がしないのです。
これ一作でもう十分一つのお話で、普段の人物像と重ねるのが難しいです。
なんていうのは出せなかった言い訳ではなく、単に創作力がなかっただけです。
実は新刊も読む時間がとれず、そのまま返して予約し直し・・という情けない状態です。
また落ち着いたら、参加しますね。
(茜雲さん)
昨日見たのですが、あまりに多いので読んでいるうちに寝る時間になってしまい
寝ることを優先させてもらいました。食べることと寝ることは私の基本!
今日になったらまたまた更新されていてみなさんの感想がずらり。
またまた読んでしまいました。日々の更新ご苦労様です。
わたしはとうとう出来ませんでした。みなさん読みがふかいですねぇ。
(紫陽花さん)




「若先生、こりゃあ、畝の旦那も御一緒で」
帳場から嘉助が出迎え、その声をききつけたように、奥から夕化粧もあでやかな、るいが、いそいそと姿をみせる。
「るいの帯の柄は、萩じゃないか」
「白萩屋敷の月」より
白萩屋敷の帰りで、帯の柄に気づいた東吾さん。季節ごとの装いを心がけるるいさんの気持ちにも、ちゃんと気づいているのかな?
   
帯に咲く 萩真白なる 夕まぐれ



「お恥ずかしいことですけれど、私、一生に一度でも通之進様と枕を共にしたいと願いました。あのお方は私よりも七つ年下で……私の気持は片思いと承知もして居りました。どうしても嫁がねばならなくなった時、私、一番、年の離れたお方をえらびました。夫となる人が一日も早く死んでもらいたい。独りになれば、又、通之進様にお目にかかれるかも知れないと……」
「白萩屋敷の月」より
火事の後、屋敷から一歩も出ることのなかった香月さんですが、通之進さんを迎えるときにも、火傷のあとを隠さなかったことでしょう。
それは走り出しそうな自分の心を止めるためだったからか、それとも、走り出した心を受け入れてもらえなくても、決定的には傷つかないためだったのかもしれません。
命の限りを悟り、通之進さんの面影を映す東吾さんを前にして香月さんの何かが切れてしまったのでしょうか。
   
傷あとはおのれが罪と受けいれし心の枷(かせ)をふりはらう夜
   



「あの人が青江家に嫁がれた夜、わたしは中尾家の菩提寺で夜をあかした。あの時の心の千切れるような苦しみと痛みは、恋だったのかと、あとで知った」
「兄上……」
  (略)
香月が、どこかで兄の告白をきいているような気がして、東吾は四辺を眺めた。
「白萩屋敷の月」より
葬儀とは別に、通之進さんはお別れがしたかった、そして一度はその気持を口にしてみたかったのでしょう。
   
君逝きて俗世を離れたりければ今は伝えむ遠き日の思い
   



 なっckyさんの五七五 

実は1時間以上かかって引用した文章や、感想を書いた(?)のですが、送信ボタンを押したとたんにみんな消えてしまいました。…
ぐっすん…根性と記憶力がないので、出来た句と歌だけ送らせていただきます。
(なっckyさんの談)

手早く身支度を整えた通之進は濃紺の継上下が映えて、弟がみても惚れ惚れするような男ぶりであった。
「白萩屋敷の月」より
   
弟も 見惚れる兄の 男ぶり
   



誰だろう、と、最初、東吾は思った。
藤色の単衣に透ける白っぽい被布を着ている。まるで、萩の花の精がそこにすわっているような、清楚であでやかな印象であった。
「白萩屋敷の月」より
   
御後室 婆と思いや 萩の精
   
萩の花 匂うがごとき 御後室
   

この出会いのシーンは、とてもミステリアスですね。



   
萩屋敷 帰れば女房の 帯も萩
   



「お香殿はその時から根岸の白萩屋敷へひきこもって、二度と番町の本宅へは帰られなかったそうです。但馬殿が歿られた折にも、とうとう根岸から一歩も出られなかったとかで……」
「火傷の顔を気にしているのか」
「世間では、そう取沙汰して居ますが……」
「源さんは違うと思うのか」
「なにかおかしな気がします。なにかが。全く見当がつかないのですが……」
「白萩屋敷の月」より
   
(ひと)のふみ 火中に戻りて 取りくれば
貞女と呼ばれて 身の置き処なく
   

生まれてくる時が少し早かったばかりに辛い恋に耐えなくてはいけなかった香月さん。でも夫のことを思えば、罪の意識も強かったでしょう。



生涯、命と思って抱きしめて来た恋歌を火中にしてしまった代りに、煩悩に火がついたようである。
「一度だけ、あなた……」
東吾は香月を抱きしめた。
「白萩屋敷の月」より
   
年下の 男(ひと)よりのふみ 火中とし
情念消えじと すがりつく女
(ひと)
   
我が腕の中 兄をば呼びし 女(ひと)の名を
(たれ)にも言えぬ 白萩の月
   



「青江殿は、ここを手放されるそうだ」
ぽつんと兄がいい、弟は別棟の黒い屋根を見た。 (略)
萩はもう散りきって、庭は荒れかけていた。
「白萩屋敷の月」より
   
散り果てし 萩の花と消ゆ 少年の恋
   



 たまこさんの五七五 

今月の御題は、はなはなさんのオーラのお陰で、数としては今までで一番かもしれません。といっても、流れるようにたくさん詠まれる方々に比べたらまだまだですし、質のほうはちっとも向上せず冷汗です。
 (UP後に)
>「バーチャルで恋愛」 ははは、そうでしょうねぇ。熱出ませんでした?香苗さんに注目された方も多く、さすが読み込みの深いご常連の皆様と思いました。皆さんに比べると、私はそれほどこのお話に特別感を持ってはいなかったんですが、あっちの管理人さん・こでまりさん・なっckyさんを始め多くの方々が短歌を作られていて、どれも素晴らしい作品ばかり、うーんやっぱり思わず歌を詠みたくなる情感のあるお話なのだなぁと思いました。
あぁ〜どこかに萩を見にいきたい!
(たまこさんの談)

香苗が、なにかいいたげにしているのに気づかず、東吾は香箱の包と兄の書状を一つにまとめて、自分の部屋へ戻った。
午前中は八丁堀の組屋敷の中にある道場で若い子弟の稽古をみてやって、屋敷へ戻って井戸端で水を二、三杯かぶって汗を流し、少々、遅い昼飯をかき込んでいると、兄嫁が新しい外出着を持って来た。
「白萩屋敷の月」より
「白萩屋敷の月」の香月さまは、かわせみ三大ヒロインともいうべき(岸和田の姫と…あと誰だ?)存在ですが、私はこのお話の香苗さんが、前々から気になっていて、東吾さんに、わざわざおろし立てのよそ行きを着せる所が、妻の意地を見せるというような、香苗さんでもそういう心の動きがあるんだなぁとちょっと印象に残っていたんです。
最初、「妻心」としましたが、季語がないのに気づいて「妻の秋」にしてみました。
   
おろし立て 使いに着せる 妻の秋
   

もう一人は誰でしょうね。(笑) 妻の秋というのも、憂いを秘めていていいのではないですか。香月さんがさりげなく香苗さんの様子を聞くところも「微妙〜」と思いました。
「妻の秋」はいつもながらたまこ様の読みの鋭さに「ほお〜〜そうよね!きっとそう!」と思いました。今回のお話は神林家、香月さんの心模様が息も詰まる濃さですね。
(のばらさん)
香苗さんの思いってあまり考えなかったです。
お使いに行く東吾さんにおろしたての着物を着せる、私はただ単に、我が家の代表、旦那様の代理なのだから恥をかかせるわけにはいかないという思いから良い物を着せる、ただそれだけかと思っていました。私の読みの浅さを感じました。うーん、これだから私には俳句ができないだ。
(紫陽花さん)
「白萩屋敷の月」の香月さん「岸和田の姫」の花姫、というのは、すごく納得!面白い着眼点ですね!じゃあもう一人は??と考えてますが。。。「絶対このひと!!」という人は思いつきません。
常連、半常連(和世さんとか)はのぞいてインパクトが鮮烈な人…、お石ちゃんのおっかあはインパクトは強烈でしたが「ヒロイン」ていうと違うし〜。紫香尼さんは悪すぎ?琴江さんはちょっと違う気がするしなかなか難しいですね。
(のばらさん)
お石ちゃんのおっかさん、かなりいい線いってると思いますが(各年代カバーするし)、レギュラーメンバーの家族は一応レギュラー扱いかなというのと、琴江さんも、麻太郎くんの実の母という立場なので、ちょっと違いますよね。
本の題名になっているのは「夜鴉おきん」と「清姫おりょう」ですが、香月さま、花姫さまに比べるとやや弱いですかねー。まだまだシリーズ続きそうなので、3人目はこれから?と楽しみにするのもいいかも…
私の中では、源さん関連のヒロインは別口になっていて、その横綱が紫香尼になっているんです。
大関が「女難剣難」のおとよ、
関脇が源三郎祝言/子守歌のおいね、
小結が「花見堂の決闘」のお栄、な〜んて。
他にも「かわせみ三大○○○」勝手に決めちゃうのも面白いかもですね!
(たまこさん)



珍しく巻羽織を着ていない源さんと、東吾さんが、連れ立って猪牙で大川を上っていく…気持ちよさそうですね〜
   
川風や 根岸へ続く 秋日和
   



「最前、いけて居られた花は、大変、珍しいものでしたが……」 (略)
尾花に、赤い小さな実のような花のと、薄青色の花とが、備前の壷によく調和している。
「野の花でございます。吾亦紅と松虫草……」
「白萩屋敷の月」より
こんな使いかたで「季語」になるのか、心配ですが…「吾亦紅」って洒落た名前ですよね。
   
吾も亦 紅(くれない)なりや 秘めし恋
   

たまこさんが送って下さった「吾亦紅」の写真、「季節の言葉」の「秋の季語」で使わせていただきました。ありがとうございました。
今月は「吾亦紅」のところで似た気持ちでよんでましたね!わたしは参加し始めてまだ三回目ですが、毎回どこかでたまこ様と同じ所をよんでるようです〜!ちょっと嬉しいです。
恋をすれば「わたしも、紅」とそっと思うときがありますよね(!?)
(のばらさん)



香月の命を縮めたのは、あの夜の出来事だと思う。
夜が明けるまで、東吾を求めてやまなかった香月が、最後にあげた声は、通之進の名を呼ぶものであった。
その満ち足りた絶叫は、しらじら明けの根岸の里を帰って行く東吾の耳にこびりついて、どうにも消えなかった。
「白萩屋敷の月」より
この物語で東吾さんが抱えてしまった秘密、考えてみると結構ヘビーですよね。萩を見るたび思い出すのではないかしら。
   
白萩の 命散るとも 悔いはなし
   

ほんと、かなりヘビーですね。その後のお話にもチラリとふれられていますしね。作者にとっても、忘れられないことなのでは。



今NHKでやっている「蝉しぐれ」では、想い合っていた二人が長い年月の末にようやく会ってお互いの想いを口にすることが出来ますが、香月さまと通之進さまはついに、互いに片思いだと信じたままで…
昔は結構こういう悲恋が多かったのでしょうか。案外今でもかな…

   
答えるは 虫の音のみか 小柴垣
   
亡き人の 面影を追う 月の庭
   

思いを伝えたいけれど、伝えることで終ってしまうくらいなら一生隠しているほうが幸せと思ったのかもしれませんね。



 あっちの管理人さんの五七五 

今回は一首だけの参加です。
決まり事も何も知らずに詠んでいるので、これが短歌と呼んでいいものかどうかもわかりませんが、参加することに意義がある!(笑)だって参加出来ると嬉しいんですもの。
 (UP後に)
アップお疲れ様でした。今月も更に盛況で大変だったのではないですか?でもおかげで素敵な歌の数々を存分に楽しませて頂きました。
それに通之進様の歌を受けて、短歌も沢山でしたね。そういう管理人も怖いもの知らずの図々しさで一句参加してしまいました(笑)こでまりさんのバーチャル恋愛よろしく、みなさんそんな感じで作ったのかなぁ…だからなんとなく艶っぽい作品が多いのかしら?「白萩屋敷の月」はやはり想像が膨らむ作品ですね。
(あっちの管理人さんさんの談)

「花に似し君想わるる月の夜に
     萩の小道を一人し歩めば  通之進」 (略)
これは恋歌ではないかと思う。兄は香月に恋をしていたのか、いや、恋と呼ぶにはまだ幼い、少年の年上の女に対する憧憬のようなものかも知れない。
「白萩屋敷の月」より
大胆に通之進様のむこうをはって、なんと短歌を読んじゃったという怖いもの知らずの恐ろしさ!
   
過ぎし日の 胸に秘めたる 我が想い そっと拾いし 白萩の花
   


今回は短歌で参加された方も多かったです。(私もです) このお歌は香月さんの思いを詠われたものと思うのですが、歳月を経ても変わらない通之進さんの心のようにも思えます。指先すら触れることのない恋だったからこそ、一生思い続けられたのかもしれませんね。
ご本家管理人様の一句も(一首でしょうか?)いいですね。そっと優しい感じがしました。つい激しく思い入れてしまい、よんでましたがご本家管理人様のは楚々とした感じで…。
(のばらさん)
ご本家でコラボして下さった
「かわせみを彩る花々 萩」はこちら




 朝霧さんの五七五 

今月の「白萩屋敷の月」アンケート上位作品ですねーー。
私もこのお話はあらためて読み返さなくてもストーリーが思い浮かびます。
今回は本を手元に出さないでも句を作れました。
通之進様の若き日(少年に近い)初恋の想い出。胸が痛くなりました。
(朝霧さんの談)

「兄は、若い時分に、あなたの父上に書を学んでいたことがあるそうですね」
黙っているのが息苦しい感じで、東吾が話しかけた。
月光の花の中の香月は、この世の者とは思えないほど、神々しく、あでやかであった。
「白萩屋敷の月」より
  
麗人の 萩庭に立ち こころ舞う
  
代役と 知りつつ訪なう 萩の君
  

かわせみ全編を通しても、東吾さんが女性を前にドキドキすることって珍しいですよね。



根岸へ着いたのは日が暮れて間もなくで、思わず息を呑んだのは、白萩屋敷の萩が満開だった故である。
垣の内は、どこも白い花が重たげに枝を埋め、花の下には花が散りこぼれていた。
「白萩屋敷の月」より
   
白萩や 月夜に光り 集めおり
   

こういう風景を一度実際に見てみたいものです。
朝霧様の「月夜に光り」の句、そのままの景色を見たんです!中秋の名月のころ夜にお隣の庭をフト見ると、萩が月光を受けてお花がきらきら光って見えました。葉は暗い色、花がきらきら…。普段は割と地味な印象の萩でしたが「月の雫をまとっているよう…」とビックリして見とれてしまいました。「これで一句〜〜!!」と思ったもののまとまらず、そのまま…。もしかして朝霧様も実際ご覧になった景色なのでしょうか。お隣のは薄紫ですがこれが庭一面の白萩だったら…まさに息をのむ美しさだったろうと思います。
(のばらさん)



   
友思い 枝折り戸で待つ 風すすき
   

「友思い…」は「源さん句」ですよね。私はふたりで舟で出かける所を取ったんですけど、源さんが待っている所に目をつけられたのを見て、「あっやられた」と思いました。すすきとの組み合わせもさすが〜!!
(たまこさん)



文字の一つ一つを心に刻むように見て、短冊を東吾へと返した。
「あなたの手で、焼いて頂きましょう。私が死んだあと、誰の眼に触れてもいけませんし、東吾様以外のどなたにも渡したくございませんから……」
「白萩屋敷の月」より
   
遠い日の 恋文胸に 秋深し
   
この恋は 東吾にゆだね 秋の露
   

命の尽きる間際に東吾さんと出会い、短冊を託すことができたのは、香月さんの幸いでしたね。自分で焼くことは、耐えられないことだったでしょうから。



 のばらさんの五七五 

よみたい場面はい〜〜っぱいあるのにちっともまとまらない悔しさもどかしさ…。
同じような場面からしか出来ませんでした。しかもなんか長くなって57577もまじりました。皆様のも楽しみです。
 (UP後に)
ふう…、なんだか息をとめがちで読んできてしまいました。本文を読み返したときもでしたが。(で、源さんと東吾さんがかわせみに行った所で「ぶはあ〜〜」と息継ぎ。)
東吾さん、ちょっと催眠術にかかったみたいでもあり、めずらしいですよね。皆様のそれぞれの思い、香月さんの情念が渦巻く感じです。読んできて、くら〜っとしています。
(のばらさんの談)

「吾も亦、紅なりと書きますの」
「吾も亦、紅、ですか」
素朴な花だけに、名が良かった。
「白萩屋敷の月」より
   
      白萩の 胸に秘めるは 紅(あか)き恋
   

私も今回だけでなく、のばらさんと目のつけ所が一緒の所が多いな、って思ってたんですよ!「こころ模様」に書かれている感じ方なども、とても共感することが多いです。
(たまこさん)



東吾さんが香月さんにはじめて会ったとき香苗さんを思い浮かべていました。 もしかして少しどこか似たところがあるのかも…と思い通之進様もふと香苗さんに香月さんが重なる瞬間があるのかもと想像してしまいまし た。
ことに萩の咲く頃の月の夜にはなおさら…。
   
萩の夜妻にまぼろし見せる月
   

神林の屋敷の庭に咲く桔梗と白萩屋敷の萩の対比。私はそれが香月さんと香苗さんの違いのように感じました。深読みしすぎかな。



そして珍しく沈んだ様子の香苗さん、きっと何か気付いておいでなのでしょうね…。
   
わが君のまなざし萩に誰想う
   



「では、明日、明後日にも……」
「今夜、其の方が行ってくれぬか」
なにか見舞に、といいかけて通之進は手文庫から一冊の本を出した。
「伊勢の御、といわれた歌人の歌集だ。先だって、手に入れたのだが、お気晴らしにと持って行ってくれ」
「白萩屋敷の月」より
通之進様はなぜご自分で香月さんを訪ねなかったのでしょう。ひょっとしたら、今会えば…香苗さんを裏切らない自信もなく、でもそうなりたくはなく、東吾さんを行かせたのかも。もうこの世では会わない覚悟で。百人一首の伊勢の歌から少し取ったつもりです。(^_^;)
   
香焚くや歌集は心なぐさむや
     会わですぎゆくこの世色無し
   

「伊勢の御」について、
のばらさんがお調べ下さいました。
ありがとうございました。
こちらからどうぞ。
「伊勢の御」の解説もタイムリーで勉強になりました。
(たまこさん)
「伊勢の御」って誰?
通之進様が香月さんに贈られた歌集ってどんなお歌が載ってたんだろう?と気になったのです。お話の中の小物がいつも気になります。「びいどろ正月」の「びいどろの櫛」とか。図書館で本見たのですが「びいどろのかんざし」しか見つけれず、です。
(のばらさん)



女の眼から涙があふれ落ちた。
「一度でいい、一度でいい、と、それだけを思いつめて…・・でも、こんな醜い顔になってしまって…・・私が通之進様に抱かれたのは、夢の中だけでございます」
「白萩屋敷の月」より
美しい顔の片側に消える事のない傷を持つ香月さん。
お顔半分の影が半月の様に思えて…。
   
長き夜の満つること無き月の夢
目覚めて遠し 君の吐息よ
   

そうですね、香月さんはもう二度と満ちることのない月のような覚悟をしていたのかもしれませんね。



「あなたは火の中へ青江殿を助けに行かれたではありませんか」
「いいえ…・・」
香月の髪が揺れた。
「あれは、この短冊を取りに参りましたの」 (略)
「これは、私の命でございますもの……」      
「白萩屋敷の月」より
   
我が恋はほむらとなりてこの身焼く
いま灰にせよ白萩の夜
   
幻に絶唱きかせ萩は散る
   



「そのことを、香月殿はご存知だったのですか」 (略)
「あの人は人の妻……いう折もなく、いう言葉もないではないか」
少年の日の思いは、そのままで歳月を越え、香月の死によって終ったと通之進はいった。
「白萩屋敷の月」より
香月さんの燃える恋、通之進様の恋は少年の日からの淡い思い、二人の恋心はいつも月が見ていた…。        
   
それぞれの恋を照らして月静か
   



金茶の細い縞の上に白く萩の花が織り出されている。
「お珍しいですね。若先生が帯の柄なんかのこと、おっしゃるの」     
「白萩屋敷の月」より
   
こりゃ怪し東吾が花の名口にする
   

「こりゃ怪し…」はてっきり「千姫さん?」と思ったら、のばらさんだったんですね。
(たまこさん)



 浅黄裏さんの五七五 

『白萩屋敷の月』という作品はなんというか重たくて、結局三句とも「萩」から離れることができませんでした。
(浅黄裏さんの談)

兄が出仕したあとで、東吾は兄嫁の香苗がどことなく沈んでいるのに気がついた。
 (略)
「青江様の根岸の御別宅は、萩が見事なのでしょう。白萩屋敷と呼ばれているとか……」
「萩は随分と植えてありました。白い花がお好きなそうで……」
「白い花……」
「白萩屋敷の月」より
通之進さんがずっと香月さんとの交誼を絶やさないことを香苗さんはどう思っていたのでしょうか。
色めいたことは全くないと承知していても夫の視線のその先に香月さんの影がさすとき、香苗さんの心の中に風のたつこともあったのではないか…と。
   
白萩の影ほの見えて風のふく
   

風だけでなく波だって立っちゃいますよね。あの香苗さんが香月さんのことを聞くこと自体、随分思い切ったことのように感じます。このあと顔にまで火傷が残っていることを知って余計に心乱れたかもしれません。



   
露満ちて萩の褥のひと夜かな
   

歌集を持って行ったのが通之進さんだったらこうはならなかったような気がします。



気がついたのは、千住大橋を越えてからのことである。
根岸の里は、月の夜であった。
兄のあとから、東吾は提灯のあかりをさし出すようにして白萩屋敷へ向った。
小柴垣のむこうは無人になっていた。
「白萩屋敷の月」より
  
ゆく秋や萩の舘に主なく
   

香月さんのいない白萩屋敷で通之進さんは、本当のお別れがしたかったのでしょう。
萩三題、素敵ですね〜。中でも一番好きなのは最後の「…舘に主なく」というのが、香月さんが亡いということと、萩が散ってしまっているということの両方をとてもうまく表しているなぁと思いました。
(たまこさん)
たまこ様、お褒めいただいて恐縮ですが、センスなんてないんですよ。「…萩の館に」の句も実はご指摘いただいたような主を兼ねるような意図は全くなくて、ただ萩のことのみを詠んだものだったのです。
これを白状しようかどうか迷いましたが、実際そんな程度のものなのです。すみません。
(正直者の浅黄裏さんでした)



 千姫さんの五七五

さて、九月の「白萩屋敷の月」は困りました!ねぇ。よっく、記憶にあるのに今回読み返してみれば今までの印象と、全然違ってしまいました。
ぼんやり読んでいた時は通之進の少年の日の淡い恋物語と、その美しい続編・くらいに考えていましたが…。
(千姫さんの談

「うちのお嬢さんが、なにをお召しになったって、ちっともお気づきにならないじゃありませんか」
「冗談いうな。気がついていて、わざと黙っているだけだ」 (略)
「東吾さんの頭の中は、どうやら、萩の花で一杯になっているようですな」
「白萩屋敷の月」より
  
萩の帯 目ざとく褒めて 墓穴ほり
   

こういう時の源さんて、絶妙のタイミングで一言入れますよね。
千姫さんもやっぱりここを見逃すはずはなく(笑) こっちは「墓穴堀り」ですか。(のばらさんと)共に<爆>でした。
(たまこさん)



源さんや嘉助が、お香を語る時の印象が冷たいようで何となくほっとします。通之進もお香殿に会わなくて香苗さまの為にもよかったし。それにしても東吾は、優柔不断な奴め・ですワ。
  
恋でなく 女の業の 萩屋敷
  

香月さんの最後の振舞いを恋と見るか、業と見るか…。相手が道之進さんではなく東吾さんだったから、香月さんも思いが遂げられた気がしました。
千姫様の「業」、そうかもしれませんね。『かわせみ読本』のなかに香月さんを源氏物語の六条御息所に例えた方がおられて、「はあ、なるほどなあ」と思ったのですが、確かにかなえられない「恋」、かなえられた「恋」どちらもずっと「一途な恋心」のままでは収まりにくいのでしょうね。もう一度読んできます〜。
(のばらさん)



 はなはなさんの五七五

「白萩屋敷の月」、何度も読み返しましたがうーん、さらりと詠むこともできるのですが…そうはしたくない気持ちもあって…難しかったです。言い過ぎずに、どう言い切るか、勉強になります。
なんとなく、俳句というより川柳、川柳というより自由律、というような出来ですね。お恥ずかしいです…。今回はもう思いが勝って冷静じゃないですね。みなさまいかがでしょうか。
 (UP後に)
みなさまステキでした〜。「バーチャル恋愛」みなさまなさったんですよね〜、きっと。そんなことを思わせるような句が多くてうっとりしました。東吾さんだったからこそ、あの短冊を香月さんは始末したのであり始末したからこそ東吾さんを身代わりに、たった一度の恋に身を任せたのですね。
みなさまの読み込みの深さに、込められたいろいろな思いがあらわになって、なんだか「白萩屋敷の月」が今まで以上に名作に思えてきます。通之進さんサイドからの視点や、香苗さんの視点、香月さんの業に絞って詠んでみたくなって来ます。
(はなはなさんの談)

「焼いて下さいまし」
東吾は短冊をゆっくり二つに割いた。かすかな声が香月の咽喉から洩れる。かまわずに細く千切って香炉にのせた。
白い煙に赤い炎が重なって、それはあっけない早さで灰になった。
「白萩屋敷の月」より
  
言の葉に 縋りし恋は 果てにけり
  



香月の想いの深さ・強さは計り知れませんね。
「怖しい女」と香月は自らを言いましたが私にはわかるような気がします。それほどに思い詰めてしまうのは、堰きとめられた思いだからでしょう。
  
いのち灼く 焔の立ちし 萩の夜
  
萩満ちる 夢の夜燃えて 恋果てぬ
  

もしこの日歌集を持って通之進さんが訪ねてきたら、香月さんはこんなにストレートに自分の思いを出せたかしらと思ってしまうんです。だから身代りの恋でも思いを伝えられたということでは東吾さんでよかったのかなって。
(↑問題発言かも)
はなはなさんがこのお話をどう詠まれるかというのは、私ばかりでなく皆さんが期待してらしたと思うんですが、いや〜もうほんと、堪能しました!!
コメント部分もうなずく事ばかりで「身代わりが良かったのかも」との「問題発言」も、皆さん共感のようですよね。私もそう思います。
(たまこさん)



花の白さと月光が夜の庭をほの明るくして、そぞろ歩きにはこの上もない。
「実に見事です。花をこんなに美しいと思ったのは、はじめてです」
それは実感であった。少くとも、萩がこれほど月の庭にふさわしいとは知らなかった。
「白萩屋敷の月」より
  
月と萩 想いの海に 身を投げる
  
恋終わる 月光の波 萩の波
  

香月さんの恋も命も、一番お好きだった白萩の咲く時に終ったんですね。



香月は畳に突伏していた。
背が波のように揺れている。女の情感が全身にたちこめていて、東吾はそれにのめり込んだ。
手をのばして抱き起すと、香月の体はしなやかに、東吾の腕の中におさまった。
 (略)
兄の身代りなのはわかっていたが、それでいいと思う。
「白萩屋敷の月」より
東吾にとって香月とのことはどういう意味を持ったのでしょうか。香月の情感に流されたのでしょうが、香月の求めに応じて身代わりになることで敬愛する兄との一体化が果たされた、どこかにそうした憧憬があったのではなかったでしょうか。あまり難しいことは考えずに秋の風情と香月の慕情に浸りたいなぁ、と思いますが。
  
波打ちし 女の身ぬち うねりあり
  
なすな恋 身代わりの夜 更けにけり