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 卯の花匂う
「新装版 御宿かわせみ」より  (平岩弓枝著:文芸春秋刊)
平成十五年五月


今月はパスになってしまいました。来月頑張ります。
でも皆さんのを読ませていただいて、
パスして良かったなあと思っています。 
皆さんすごすぎ。
(zmzmさん)
「ゆいさんの卯の花講座」拝見させていただきました。
イヤーッアホ丸出しですね。
知らない人にも知られてしまいました。
間抜けな質問でも使ってくださり、有難う御座いました。
俳句の世界は「闇夜のカラス」。
詠むなど百年早いでございます。
でも皆様の素敵な俳句は楽しませて頂いております。
(蛍さん)
「はいくりんぐ」も拝見しました。
たまこ様はじめ皆さんスゴイ…!マジで圧倒されました。
これは私もロム子さんになるしかないです。
(小式部さん)



顔では笑っていたが、東吾にはるいの気持がわかっていた。他人でなくなって一年余り、惚れ合って、ずるずると夫婦同様になってはいるものの、晴れて夫婦になったわけではなし、おいそれとそうもなれない二人の仲であってみれば、つまらない市井の中年夫婦の話でも、つい、羨しいと本音が出てしまうのも無理からぬといえよう。
「ねえ、燕が巣を作ったんですよ、うちの軒下に……明日になったらみてごらんなさいまし……」
気がついたように、るいは自分から話を変えた。
「卯の花匂う」より
   
行く末は聞かず 卯の花垣の宿
   



父を裏切って、他の男の許へ奔った母を殺して自分も死ぬ。
この若者はそれだけを思いつめている模様である。十三歳で或る日、突然、両親を失った少年の怒りと悲しみが東吾にはおよそ理解出来た。
おそらく、進藤喜一郎の生甲斐は母を殺して死ぬことにあった。そのためには、如何に愛していても、くみを抱くことは出来なかった。
「卯の花匂う」より
   
五月雨や 他人のままの 愛通し
   



吉野屋治兵衛は覚悟をきめたように眼を閉じていた。起き上る力もない。それをみて、女房もすがりついたまま、目を閉じた。
陽の光と、風の中で、誰もが動かない。
そのままの姿勢で、ふっと治兵衛が眼をあけた。すがりついている妻へ訊いた。
「花の……匂い……花の……」
女房が眼をあけた。石段の下の白い花をみる。
「卯の花ですよ」
「そうか……」
そのまま、夫婦とも眼を閉じた。
「卯の花匂う」より
   
生と死の 刹那ににほひ 花うつぎ
   



 たまこさんの五七五 

なんだかんだと言っても、かわせみ放映が終っちゃうのも、寂しいような気がしますね。しっかり私の生活のスケジュール入りしてしまった「かわせみ」句です。これというのが出来ないのが悩みですが。
 (UP後に)
zmzmさんと同様、私も皆様の句に圧倒されています。いつも同じ事いってますが、皆さんそれぞれの個性を感じてとても楽しいですね。
(たまこさんの談)

「おくみ、なにをする……」
喜一郎の絶叫で、東吾は遂に襖をあけた。
おくみという娘が剃刀で咽喉を突こうとし、喜一郎がそれを必死で押えつけようとしている光景が東吾とるいの眼に入った。
思いがけない東吾とるいの姿をみて、若い二人は石のようになった。
「卯の花匂う」より
東吾さんとるいさんが隣の部屋にいて良かった!
   
五月雨や 一途な心の すれ違い



源三郎の顔に陽が当った。定廻りをまめにしているから、陽に焼けて黒い顔に、瞬間、翳が走った。
「人間は神さまじゃありませんからね」
源三郎がなにをいおうとしているのか、東吾には見当がつきかねた。
畑を抜けると、もうそこが石段であった。
石段のわきに白い花がかたまって咲いている。これと同じ花が「かわせみ」の垣根の近くにあったと思い、東吾は足をとめた。かすかだが、花の香がした。
「卯の花匂う」より
   
花の香は 十手の思案に 勝りけり
   
卯の花に 母子の想い 重なりぬ
   

普段はあまり表に出しませんが、この時の源さんは、随分迷ってますよね。「十手の思案」とは、うまい表現です。誰も死ななくて本当に良かった!



一夜あけて、早立ちの客が殆ど「かわせみ」を発ってしまってから、喜一郎とおくみが旅支度をして下りて来た。
「長いこと、お世話になりましたが……」
これから京へ帰るという。
  (略)
「燕の雛が顔出してますよ」
灰色の巣から黄色いくちばしが三つのぞいていた。
「卯の花匂う」より
燕が物語に出てきたなんていうのは、この企画がなかったら、永遠に気がつかないままに終っていたと思います。
   
つばくろの 親子も祝う 門出旅
   

お二人の旅たちの朝に、燕の子はとてもピッタリですね。



 朝霧さんの五七五 

今月の「卯の花匂う」のお話、源さんや兄上様の気遣いの暖かいしっとりしたお話ですね。さっそく読み返して四苦八苦、原作の登場人物達の想いが切なく、難しかったです。
 (UP後に)
皆様の句に毎度う〜〜んとうなってしまいます。自己流俳句であせあせの朝霧。綺麗にレイアウトされた時晴れがましくて嬉しくて。ありがとうございました。
(朝霧さんの談)

「いったい、なんの花が咲いていたんですか。今時分……香りのする花なんて……」
  (略)
「おい、この花だよ」
気がついて、東吾はるいを垣根の外へ連れ出した。
「卯の花ですよ、これは……」
「こいつが咲いて、匂ったんだ……」
神社の石段の下に一群れ咲いていた野の花が、人の心のむきを変えた。
「卯の花匂う」より
   
卯の花や においで教ふ 人の機微
   
卯の花の 咲きて梅雨入り 江戸の空
   

今回「卯の花は匂うのか」が、随分話題になりましたね。
卯の花についてはこちらからどうぞ。



石段をおよそ八十段へだてて、吉野屋の夫婦と進藤喜一郎が対峙している。
声は最初、吉野屋の女房の唇から出た。
「喜一郎ですね……」
「卯の花匂う」より
   
命の子 忘れぬ母よ 梅雨しぐれ
   



「母が死んでいれば別ですが、もしも、母が敵と一緒にいた場合……」
流石に唇をゆがめ、苦しげな呼吸になった。
「母を刺して、自分も自害する所存です」
静かな声だけに、真実感があった。
「ですから……手前はくみを……くみと他人のままでありたいと思っています」
「卯の花匂う」より
   
夏始め 熱き血潮よ 清き恋
   
むすばれて 江戸の旅立ち 風さやか
   

このお二人の爽やかな恋が成就して本当に良かったです。シリーズの中でも、ベスト10に入りそうなカップルですね。



 千姫さんの五七五 

今月は遅れる事なく、俳句が送れます。
益々充実の「はいくりんぐ」に、俳句(私の場合は、川柳)を投稿するようになり、後から皆さんのコメントを頂いて、舞い上がっています。
(千姫さんの談)

卯の花って、本で見るだけで実際には見た事が無いんです。店にも無いし、誰に聞いても知らないって。
   
卯の花を 匂ってみたい 見てみたい
   

私も見たことがないんですよ。エヘヘ
初夏に咲く白い花って、爽やかで心惹かれます。


「あの二人、もう他人じゃないみたい」
そっと、るいが東吾にささやいた。
「お前、布団をみたのか」
「そんな……馬鹿ばっかし……」
るいが軽く東吾を叩いた。
「そんなものみなくたって、なんとなくわかりますよ」
「卯の花匂う」より
   
旅籠屋の 苦労も艶に なりにけり
   
ちどりの間 夫婦になった 契りの間
   

千姫さまの艶っぽさがステキです。「ちどりの間は契りの間」は「やられた!」って感じです。
(はなはなさん)
「ちどりの間」⇒「契りの間」なんて千姫さんじゃなくちゃ思いつきません!(昨年バーチャルお泊会で、ちどりの間に宿泊させて頂きましたんで、いっそうウケました)
(たまこさん)



今にも殺されかかっている中で、身動きの出来ない夫が花の香に気づき、妻に問い、妻が答えたのが、奇妙なようで自然だった。
長い緊張の流れが、そこだけ穴があいたようである。
喜一郎の顔がくしゃくしゃにゆがんだ。
「卯の花匂う」より
   
我捨てた 母 恨み解け 五月晴れ
   

この、母との再会が、喜一郎さんをすっかり大人にしたようですね。



 はなはなさんの五七五 

「卯の花匂う」、登場人物の書き分けがくっきりしていて、話も暗くなくて、季節感も満載で…、初期の名作だと思います。
 (UP後に)
五七五は本当に楽しいので、たくさんの方が親しんで下さるとうれしいです。
(はなはなさんの談)

喜一郎の心根があわれで、母も吉野屋治兵衛も精一杯生きていて…本当に息を詰めて石段の場面を読んだ覚えがあります。
卯の花のにおいは本当にかすかなものですが、それにさえ気づくほど張り詰めていたのではないでしょうか、治兵衛も喜一郎も、そして母も。緊張するとかえって感覚が鋭くなるといいますものね。
   
卯の花の かそけきにほひ いのちなる
   
白き花 あるかなきかに かほる瞬間(とき)
   

このシーンは、私も息を詰めて読みました。その場にいた源さんは、緊張して匂いがしなかったと言っていますが、命にかかわる領域にいた人たちの感覚はまた特別なのでしょうね。



「喜一郎さんがね、やっぱり、花の香がすると思ってたんですって、敵を討って、母親を斬ろうという最中に……そしたら、相手もおっ母さんも花の匂いに気がついていた。同じ花の匂いをかいでいるんだなと思ったら、どうにもならなくなっちまったんですって、おくみさんに泣きながら話してましたよ」
「卯の花匂う」より
   
ははそはの 母も人間(ひと)なる いのちかな
   
めぐる時 卯の花にほひて かさなりぬ
   

はなはなさんの俳句を読むたび恋しているのかなぁ…
羨ましいなぁ…と。
(千姫さん)
ほほほほ、千姫さまスルドイ!
(はなはなさん)



 花みずきさんの五七五 

「卯の花匂う」で浮かんだもの見るだけ見てやってください。
 (UP後に)
早速拝見しました。みなさん印象深い場面は同じなのですね。なんか、うれしくってパソコンの前でのニヤニヤしてると子供に不信がられました!
(花みずきさんの談)
   
同じ香に 心よせたる 母子(おやこ)かな
   

この先、二度と出会わないかもしれない母と子。でも、卯の花の咲く頃だけは、お互いを温かく思い出せるといいですね。


「若旦那様……」
低く、思いつめたような女の声に、るいも東吾も聞きおぼえがあると思ったとたん、衣ずれの音がして、明らかに女が抱きついたような気配があった。
  (略)
「お前の気持はありがたい。わたしだって、お前がきらいなわけではない……だが、いけないんだ……」
かすれた声のまま、男が続け、女は声を殺して忍び泣いた。
「くみはどうなっても……たった一度、若旦那様に……」
「卯の花匂う」より
   
熱き想い 押さえ切れぬと 泣く乙女
   

この時のおくみさん、本当に死ぬ気で告白したんでしょうね。喜一郎さんの方は、死ぬ思いで堪えて。後に結ばれて、本当に良かったです。