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 梅一輪
「新装版 狐の嫁入り」より  (平岩弓枝著:文芸春秋刊)
平成十五年ニ月




「あたし、捨て子だったんです。明神様の境内に捨てられているのを、おまいりに来たお父つぁんに拾われて……」
彦六は青梅の生まれだった。  (略)
「青梅は将門様の故郷だって。 (略) 明神様の境内で拾った子だから、将門様の思し召しだって……」
名をおまさとつけ、手塩にかけて育てあげた。
「あたしは面白がってお父つぁんから掏摸の業を習ったけれど、お父つぁんは一度もあたしには掏摸はやらせなかった。汚れた指は自分一人で沢山だって……」
おまさにとって、かけがえのない、優しい父親だった彦六は、おまさが原因で命を落とした。
「あたしが怨みを晴らさなけりゃ、お父つぁんは生涯、浮かばれやしません」
「梅一輪」より
敵討ちを果たしたおまささん。
お墓参りにも、梅を持って行ったような気がします。
   
滝夜叉は 心に彫りて 梅手折る(たおる)



東吾はるいと一緒に神田明神の境内にいた。
   (略)
それに、東吾がおまさを頭から信じ切っているのも、内心、なんとなく面白くない。
「誰かさんは、きれいな女の人のいうことは、すぐ信じておしまいになるんですものね。今までだって……」
「今まで、俺が誰に欺された」
   (略)
すったもんだと口喧嘩をしている中に、気がついてみるとあたりはもうたそがれて来ている。
「来ませんよ、とうとう……」
るいにいわれて、東吾は仕方なく境内を出た。
「梅一輪」より
この二人、おまささんのことで頭が一杯で、実は梅の花なんて見ていなかったのかもしれません。
   
痴話喧嘩 聞かぬふりする 梅一輪



 たまこさんの五七五 

「梅一輪」かなり、場面的には競作になりそうで恐いなー。
先輩みなさまの作品を先に見ちゃうと、投稿の勇気がくじけると思いまして、さっさと送ってしまいました。
(たまこさんの談)

「東吾さんのつかまえた女掏摸ですが、やっぱり、彦六の娘かも知れません」
のっけからいわれて、東吾は勢込んだ。
  (略)
源三郎がみせたのは、小さな紙片であった。
やさしい女文字で「彦六」と書いてある。
「ここ数日の中に、同じような掏摸の被害が次々と届け出されています。」
「梅一輪」より
   
亡き父の 伝えし技よ 春浅し



神田明神の梅の状態は、原作からはあまり詳しくわかりませんが、ラストシーンで源さんが持って来る一枝が初咲きで、その前の捕物のときにはまだ蕾だったと、勝手に解釈しました。
   
境内の 蕾の梅に 覚悟告ぐ
咲き初めし 社(やしろ)の梅が 知る想い
   

いつもながら、たまこさんは本文をよく読みこんでいらっしゃいますね。境内では蕾だった梅が、ラストで初咲きになったという展開、素敵です。



 はなはなさんの五七五 

うーん、今回は数で勝負してる気がする。
でもなんだかこのお話はいろいろ出来ちゃうんですよ。
(はなはなさんの談)

「おまさは、神田明神へ行ったそうですよ」
「じゃ、どうして出て来なかった。俺達は夕方まで、馬鹿な面して待ってたんだぞ」
   (略)
「東吾さんが一人じゃなかったからですよ」
「なに……」
「よせばいいのに、おるいさんとべたべたしてたそうですな。おまさはそれをみて、つむじをまげたんです」
「誰が、べたべたなんかするか。白昼堂々あんな吹きっさらしで……」
「だから、女は怖いですよ。好きと嫌いは紙一重と歌の文句にもあるくらいですからね」
「梅一輪」より
さて、「梅一輪」、読めば読むほど好きなお話です。
東吾さんも罪作りなお方ですねぇ。おまささんに同情してしまいます。
   
深情け 匂い残して 梅一輪
透き見して ひと知らずして 梅を折る
   
花のかげ ひと待つ人の 横顔うつす



おるいさんも気がそぞろでしょうに。
もてる亭主を持つと苦労するんですね、きっと。
   
この人は わが夫(つま)よとぞ 見上げけり
妹背(いろせ)よと 呼びかけつれば どこかで見てる
   

お二人が並んでいると、さぞかし目立ったことでしょう。その視線の中で、この人は私の夫と思う女心、よくわかります。でも東吾さんも同じ気持ちで、るいさんを見ているんでしょうね。



 朝霧さんの五七五 

俳句は今まで作ったことがありませんでした。 2月は季語が「梅」とありましたので、歩きながら一生懸命考えた末、このようなものでよろしいのでしょうか。
(朝霧さんの談)


神田明神の境内で待ち合わせたおまさが、るいさんと一緒に待っている東吾さんをみて、仲のよい2人の様子をどんな気持ちで眺めたことでしょう。
源さんに託した梅の枝に一輪。その香りが甘く部屋に漂う。そしてその香りを入ってきたるいさんはどのような気持ちでかぐのでしょう。
   
梅の香は 熱き想いを 伝えけり



るい様は初夏でしたから七重様かな?
雪が降っていましたので真冬?
昔の日本髪の女の方の祝言を思い浮かべながら。
お話と関係ないものですが。
   
綿帽子 はにかみかおる 梅一輪
言祝ぎの 花嫁衣装に 梅かおる
   

綿帽子の花嫁さんと、梅の清楚な美しさ、とてもよく似合っています。あたりを包む馥郁とした香りも、花嫁を祝っているようですね。



 あっちの管理人さんの五七五 

またまた性懲りもなく「梅一輪」にちなんで発句してみました。今回はみなさんから沢山あつまったようで、ちょっと恥ずかしいのですが、せっかくなので賑やかしに見て下さい(笑)
たまこさんじゃないですが、「かわせみ」五七五ってちょっとはまっちゃいますね。ルールも何もわからないけれど、こうやってみんなで楽しんで作るのっていいですね。
(あっちの管理人さんの談)

神田明神の寒い境内で相合い傘でおまさを待っている二人を詠んでみました。
   
寄り添いて 待ち人いずこ 梅一輪


源三郎が懐から小さな枝を取り出した。梅が一輪、咲いている。
「おまさが東吾さんに渡してくれといいましてね、明神様の境内に咲いていたそうです」
「馬鹿、そんなもの、かわせみに持ってくる奴があるか」
るいの足音が廊下を戻って来た。
たった一輪なのに、部屋には花の香が甘くただよっている。
「梅一輪」より
すべてが片付いたのを報告に来た源さんをよんでみたのですが、ちょっと可笑しいかな…
   
源三郎 梅の香ほのか 黄八丈
   

梅はこの場面で初めて出てくるんですが、この一枝で、お話がずい分と明るくなりますね
源さんが懐に入れてきた梅を出した後の着物、という視点にも「あっやられた!」
この時はまだ、お千絵さんもいないし、かすかな梅の香りの黄八丈も誰も気付かないまんま、洗濯物になっちゃったのかなー。
(たまこさん)



 千姫さんの五七五 

私は梅が咲くことに強い思い入れがあります。
20代の後半、寝たっきりになり年を越し、死ぬ事ばかり考えていた時、一方では「梅が咲いたら動けるようになる」と自分に言い聞かせていた事があり、「梅」の句はどうしてもその頃の自分を詠んでしまいます。

俳句や短歌の意味や決まりも知らずこれでええのかなぁ、と心配です。
だから、エイ・ヤア!で送信します。
(千姫さんの談)

「梅一輪」のおまさの最後の態度が私には理解出来なかったので、こう、解釈してみました。
   
自分にも あったはずだと 言い聞かす 梅の咲く頃 夫(つま)の温もり
   

心の振り子が大きく揺れたときに、梅の可憐な花を支えにされたんですね。そこに千姫さんの強さを見た思いがしました。

おまささん、やっぱり本当は吉二郎さんが好きなんだと思います。わかっているのに、ちょっと心揺らいだ自分にも腹が立って、あんな体当たりになっちゃったのかもしれませんね。



 百楽天さんの五七五 

   
恋歌の 想いが咲いた 好文木
   

たまこさんのホームページのご常連、百楽天さんです。「梅にちなんで一句」ということで、お送りくださいました!好文木(こうぶんぼく)は梅の異名だそうです。