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 師走の客
「新装版 御宿かわせみ」より  (平岩弓枝著:文芸春秋刊)
平成十四年十二月



「長尾どのが、おすがさんを後添えにしたいといい出したんだ」
  (略)
「おすがさんも承知して、実は俺達に仲人をといわれたんだ。ごく、内輪の祝言を初春になったらと申されてね」
「仲人ですって……」
「るいに相談なしにまずかったが、まだ、そんな柄ではないと思ったから、兄上に押しつけた。兄も喜んで引き受けるというし、長尾どのも満足してくれた……」
「そうだったんですか……」
東吾の処置を当然と思いながら、るいは自分でも気がつかないで、寂しい表情になっていた。
「師走の客」より
   
受けられるはずなきことは知りつつも 務めてみたき 晴れの仲人



大晦日はよく晴れた。
はやばやと正月の仕度を終えて、るいは居間でぼんやりしていた。
昨年も、その前の年も大晦日の夜、東吾は「かわせみ」へ来ない。
元旦の朝は、神林家も兄弟そろって新春を祝い、屠蘇をくみかわすであろうし、いくら気儘な次男坊でも、元旦早々、屋敷をあけるわけには行かないとわかっていて、今夜のるいは寂しかった。
「師走の客」より
   
正月の 仕度整う 居間広く



掃き清めた玄関に、長尾要は気さくな様子で立っていた。るいが眼を見はったのは、その背後につつましく新太郎を連れておすががいたことである。
「このような時刻に申しわけございません、あの……年があけませぬ中に、どうしてもお礼を申し上げたいと……」
くちごもり、恥じらって、おすがが長尾要をみた。微笑していた要が、律義に会釈をする。
  (略)
親子ほど年が違う筈なのに、長尾要により添ったおすがはしっとりと落ちついて、少しも夫婦であることが不自然にみえなかった。手をひいている新太郎が本当の子のようである。
「師走の客」より
お三人の名前を入れてみました。
ちょっと苦しい。。。
   
めぐり会い家族のかなめ得てともに 迎える新年 すがしくぞあらん



「よろしいんですか、元旦に朝帰りなんて」
  (略)
「つまらねえと思ったのさ、夫婦が除夜の鐘を別々に聞くなんて……」
  (略)
「るいは苦労性だな」
東吾が苦笑した。
「そりゃ、人間、生きていりゃあいろいろあるさ、大事なのは、それをどう乗り越えるかじゃないのか。長尾どのもおすがさんもそれは百も承知と思うが……」
「師走の客」より
   
寄り添いて 聞く鐘の音や 初春(はる)間近



 はなはなさんの五七五

俳句かどうかわかりませんが、それらしいものをたまに作っておりまして。大好きな「かわせみ」題材なら楽しいかも…と思ってあつかましくもお邪魔させていただきました
(はなはなさんの談)

東吾と他人でなくなって丸二年、決して飽きも飽かれもしないと信じているものの、女の身では心細さがつい先立った。
  (略)
悲しい眼をして、るいは炬燵に顔を埋めていた。
明日の元日のために、髪も結い、晴れ着に着がえたものの、みせたい人はせいぜい三カ日が終らなければ、屋敷を抜け出せそうもないのだ。
「師走の客」より
「師走の客」は、大晦日に東吾さんの訪れを待つともなく諦めて居るおるいさんが切なくて、好きなお話です。
   
待ちわびる うす雪のかげに 赤き南天
おおつごもり こひしきひとの 衣あたためて
   
独り居の 熾(お)き火のあかき 火鉢抱きて

火には不思議な癒しの力がありますね。
独りじっと火を見つめ、寂しさに耐えているるいさんが浮かぶようです。
白い雪と南天の赤の対比がとても綺麗ですね。
(あっちの管理人さん)



大事なのは、それをどう乗り越えるかで、それは東吾と自分の未来にもいえることであった。
除夜の鐘が、いきなり鳴りはじめた。
東吾の背に寄り添って、るいはうっとりとその鐘の音をきいていた。
「師走の客」より
東吾さんの訪れは、どんなにか、おるいさんを喜ばせたか…。
    
小雪舞う 遠く近くに 年越しの鐘
手をとりて聴く 歳神のおとづれ 千代に八千代にと