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 山茶花は見た   
「新装版 山茶花は見た」より  (平岩弓枝著:文芸春秋刊)
平成十四年十一月



「よく、花の咲く日なんぞをおぼえていらっしゃいますのね」
それだけ、東吾が「かわせみ」に馴染んだ証拠のようで、るいは嬉しかったが、花の咲く日をおぼえているというのが、如何にも東吾らしくなく思えて、つい、いった。
「この花だけはおぼえているのさ。大方、るいの、生まれた日のあたりに咲き出すだろう」 
「山茶花は見た」より
   
生まれ日は 山茶花咲く日と 夫(つま)言ひて



「あと九日で、お前の生まれた日だな」
  (略)
「なにか買ってやるつもりだが、欲しいものはないか、どうせのことなら、るいの欲しいものがいいだろう」
  (略)
年下の亭主は木剣をふり廻しながら、いばっている。
「でしたら、おねだりしたいものがございます」
思いついて、るいは甘えた。
  (略)
初冬にしては暖かい日で、大川には陽炎が立ちそうな気配である。
「山茶花が早く咲く筈だな」
着流しに羽織なしでも、寒くない。
久しぶりに二人そろって外へ出たことで、それでなくとも、るいは上気していた。
伊勢屋の店に、るいがみつけた掛け守は、幸い、まだ売れずにあった。
「こういうものは、なかなかお客様のお眼に止りませんが、よいものでございます」
「山茶花は見た」より
   
小春日や 並びてもとむ 掛け守